Kyutech物性グループセミナー(アーカイブ)
第10回: 2014年6月18日(水) 17:00-19:00
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第一会議室
【講演者】渡辺真仁 (基礎科学研究系・准教授)
【タイトル】価数ゆらぎのもたらす新しい量子現象
【概要】
Ce系化合物やYb系化合物で、CeやYbの価数転移の量子臨界ゆらぎが様々な物性異常を発現していることが、これまでの理論および実験研究により明らかになってきた。講演では、価数転移と量子臨界現象に関するこれまでの研究を概観し、最近の話題についても紹介する。
第9回: 2014年5月21日(水) 17:00-19:00
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第一会議室
【講演者】堀部陽一 (物質工学研究系・准教授)
【タイトル】マルチフェロイック六方晶酸化物RMnO3におけるボルテックス分域構造 -透過型電子顕微鏡を用いた物性研究-
【概要】
六方晶マンガン酸化物RMnO3 (R=Ho-Lu, およびY)は、MnO5六面体傾斜を主秩序変数・自発分極を従秩序変数とする間接型強誘電体であり、また低温度域で反強磁性を示すマルチフェロイック物質である。本系におけるMnO5六面体傾斜、強誘電性、および反強磁性の相関について調べるため、各々の性質に関係した分域構造の研究がなされている。例えば、第二高調波を用いた研究から、強誘電分域境界及び反強磁性分域境界の密接な相関が指摘されている。一方、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた研究からMnO5六面体傾斜に関係した構造分域(反位相分域)の存在が指摘されてはいたもののその詳細についてはこれまで明らかではなかった。本セミナーでは、TEMによる物性研究について簡単に紹介した後、六方晶マンガン酸化物においてTEMによる分域構造観察から見出された、構造分域及び強誘電分域の興味深い相関について紹介する。
第8回: 2014年4月7日(月) 16:30-18:30
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第一会議室
【講演者】出口博之 (基礎科学研究系・教授)
【タイトル】スピングラスのカイラリティ仮説と超伝導セラミクスのグラス転移
【概要】
希薄磁性合金のように磁性イオンがランダムに配置している場合、低温でスピンがランダムな向きで凍結しているような秩序相が存在し、スピングラス相と呼ばれている。スピングラス転移については、理論、シミュレーションおよび実験において長年研究されてきたが、実験と理論での不一致な点があり問題となっている。川村は、カイラリティと呼ばれる自由度がスピングラス転移において本質的な役割を担っているというカイラリティ仮説を提唱した。この仮説によれば、等方的な相互作用をもつスピングラスは、スピンとカイラリティが分離して別々に秩序化するが、異方性があると同時に秩序化する。現実のスピングラス物質では多少なりとも異方性があり、スピングラス転移はカイラルグラス転移の性質を持つことになり、今までの理論と実験の矛盾点を解消できる。このカイラル仮説を実験的に検証するには、等方的な極限での現実物質におけるスピンとカイラリティ分離が観察できれば一番よい。d波超伝導体のセラミクスは0とπの位相差を持つジョセフソン接合系のネットワークとみなされ、ハミルトニアンが等方的(XY)なスピングラスに対応する。そこで、実験的にカイラリティ仮説を検証するために、超伝導セラミクスのグラス転移についての研究を行っているので、その内容を紹介する。
第7回: 2014年2月17日(月) 17:00-19:00
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス総合研究6号棟マテリアル会議室
【講演者】堀出朋哉 (物質工学研究系・助教)
【タイトル】ナノ構造による量子化磁束挙動の制御 -超伝導線材の高性能化を目指して-
【概要】
材料において特性を制御しデバイス等に応用していくにはナノスケールの構造制御を行う必要がある。ナノ構造制御においてはトップダウン法とボトムアップ法があり、これらを駆使することで様々な構造を作製することが可能になる。本発表では、発表者が過去に行ってきたナノ構造作製手法(磁気ヘッドの微細加工、超伝導薄膜作製)について簡単に紹介した後、現在もっとも重点的に進めているナノコンポジット超伝導薄膜の構造制御について詳細に説明する。送電ロス低減、MRI、SMESなどの超伝導応用に向け開発が進められている高温超伝導線材では臨界電流密度を向上させる必要がある。高温超伝導体内に侵入する量子化磁束の挙動を制御し臨界電流密度を向上させるためにはナノスケールの非超伝導相を超伝導体内に導入することが有効である。現在もっとも高い性能が期待されているYBa2Cu3O7ではサイズ5-10nmのナノ介在物(BaSnO3ナノロッドやY2O3ナノ粒子)を薄膜成長時に導入することにより高い臨界電流密度を実現することができる。さらなる磁束挙動制御を目的として、現在ナノ介在物の分布と界面に着目している。これらを制御した構造において作製プロセス・ナノ組織・臨界電流密度特性を議論する。
第6回: 2014年1月27日(月) 16:30-18:30
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス百周年中村記念館特別会議室
【講演者】飯久保智 (生命体工学研究科生体機能応用工学専攻・准教授)
【タイトル】Mn3(Cu1-xGex)Nの磁気体積効果 (Magneto-Volume Effect of Mn3(Cu1-xGex)N)
【概要】
温度を上げると大抵の物質は体積が膨張するが、磁気的な要因により縮む物質も存在することが知られている。本セミナーでは、2005年に理研の竹中らによって報告された負熱膨張物質である逆ペロフスカイト型化合物をとりあげる。その起源として注目された微視的なスピン、または局所構造の変化を、中性子回折によって調べた研究を紹介する。
While a volume of the materials are usually increased with increasing temperature, there are several materials show a contraction due to their magnetism. In this talk, I will show you experimental study about anti-perovskite compounds which shows negative thermal expansion (NTE) coefficient around room temperature, reported by Takenaka et al.. The experimental results are about the behavior of spin and local structure considered as an origin for the NTE, measured by using neutron scattering techniques.
第5回: 2013年12月9日 (月) 16:30-18:30
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第一会議室
【講演者】美藤正樹 (基礎科学研究系・教授)
【タイトル】銅酸化物超伝導体の歪み効果
【概要】
物質に応力を加え、歪みを与えれば、格子に変調が起こり、電子の電荷・スピンに起因する物理的多体効果に変調を加えることができる。
歪みの加え方には何通りかあるが、無配向結晶に無造作に応力を加えても、物理的な考察を深めることはできない。物理的に意味のある研究をするために、
(1)単結晶もしくは粉末試料に対する静水圧力実験(圧力という物理量が使える)、
(2)単結晶試料の一軸応力・一軸圧縮実験、
(3)薄膜試料における基板とのミスマッチによるbiaxial strain,
(4)圧電素子上に堆積させた薄膜試料への引っ張り・圧縮実験などがある。
銅酸化物超伝導体の場合、これまで(1)の静水圧力実験が非常に盛んに行われてきており、(2)と(3)の実験は数例のみである。
今回のセミナーではこれらの現状を紹介した後、我々が最近取り組んでいる銅酸化物超伝導体の歪み効果に関する実験を紹介する。
第4回: 2013年11月11日 (月) 16:30-18:30
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第二会議室
【講演者】小田勝 (基礎科学研究系・准教授)
【タイトル】コロイド状半導体ナノ結晶の光物性: 基礎から応用の将来展望まで
【概要】
化学反応を利用したボトムアップ方式により作製できる「コロイド状半導体ナノ結晶」の寸法は,一般的な半導体ナノ構造物質より1~2桁小さく,数nm程度である。講演者の小田は,このような極微小半導体中の電子系により創られる新たな光物性に着目し,このナノ結晶の寸法や形状を制御する化学合法の開発と,光学実験による光物性の探索・制御に取り組んできた。今回の講演では,このナノ結晶の基礎的な物性・物理を解説するとともに,特に,単一ナノ結晶に対する顕微発光分光計測より,最近明らかとなりつつある光物性を紹介したい。さらに,今後期待される融合研究や素子開発などの展望について述べる予定である。
第3回: 2013年10月7日 (月) 16:30-18:30
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第二会議室
【講演者】松平和之 (電気電子工学研究系・准教授)
【タイトル】パイロクロア型Ir酸化物における金属絶縁体転移
【概要】
近年,三角格子を内包した強相関系物質において幾何学的フラストレーションに起因した新奇な現象が見いだされ注目を集めている。パイロクロア型酸化物A2M2O7はAおよびMサイト共に正四面体が頂点共有した3次元ネットワーク構造を有しており,幾何学的フラストレーションの研究に格好の舞台を提供している。我々は2006年にパイロクロア型Ir酸化物Ln2Ir2O7(Ln:希土類)において,金属絶縁体(MI)転移を示すことを発見し,その機構解明,外場による応答,キャリアドープによる物性制御についての研究を展開している。5d遷移金属酸化物は,強い電子相関効果が重要な役割を持つ3d電子系とは異なり,スピン軌道相互作用と電子相関効果が競合した新たな電子物性が期待されている。また,最近の理論的研究からは,パイロクロア型Ir酸化物はトロポジカル絶縁体,ワイル半金属等というキーワードで議論されている。本セミナーにおいては,パイロクロア型Ir酸化物のMI転移の概要について紹介する。
第2回: 2013年8月30日 (金) 16:00-18:00
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第一会議室
【講演者】中村和磨 (基礎科学研究系・准教授)
【タイトル】第一原理GW計算を用いた物性研究
【概要】
第一原理電子構造計算による物性研究の最近の動向について紹介する。これまでは、密度汎関数バンド計算に代表される平均場計算が主流であったが、近年の計算機進展により、第一原理の範疇で電子相関効果を直接的に取り込んだ計算が、可能になってきている。講演では、グリーン関数法に基づく第一原理計算のポイントを解説し、具体的な物質への応用研究について述べる。特にGW近似によって取り込まれるプラズモン素励起の低エネルギー電子物性への影響について議論する [1]。
[1] K. Nakamura, S. Sakai, R. Arita, and K. Kuroki, arXiv:1306.0354
第1回: 2013年7月23日 (火) 16:00-18:00
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス工学部第一会議室
【講演者】渡辺真仁 (基礎科学研究系・准教授)
【タイトル】重い電子系における新しい量子臨界現象
【概要】
近年、Yb系およびCe系重い電子系において、スピンゆらぎの量子臨界現象の枠組みに従わない、非従来型の量子臨界現象が観測され、強相関電子系における大きな問題となっている。最近、YbやCeの臨界価数ゆらぎが新しいタイプの量子臨界現象を引き起こすことが理論的に提案され、非従来型の量子臨界現象を統一的に説明する機構として注目を集めており、その実験的証拠も観測されはじめている。講演では、遍歴電子系における量子臨界現象を概観し、価数ゆらぎの量子臨界現象の最近の発展を紹介する。