Kyutech物性グループセミナー(アーカイブ)
第50回: 2020年1月28日(火) 16:30-18:00
【場所】(戸畑)本部棟3F 3F1会議室
(飯塚)研究管理棟3F 第2会議室
【講演者】田中啓文 (生命体工学研究科人間知能システム工学専攻)
【タイトル】ナノマテリアルによるニューロモルフィック演算
【概要】
近年深層学習の優れた計算能力が広く認知され,人工知能の実応用が急速に広がっている。一方で,人工知能アルゴリズムを実行するハードウェアは,シリコンCMOS技術のスケーリングの物理的限界に直面し,性能向上は頭打ちである。このため神経情報処理系である人工ニューラルネットワークやその応用形である深層学習システム (以下これらを人工知能システムと呼ぶ) を物理的に実装するハードウェア技術とそれを支える新しい材料・デバイスへの関心が高まっている。求められるデバイス機能として,従来の計算システムと決定的に異なるのは,ダイナミクスの利用である。ナノマテリアルの非線形性やネットワーク構造を巧みに用いることで,自発的にパルスやノイズを発生するデバイスの実現が期待される。これらのデバイスは人工知能システムの飛躍的な低消費電力化や高集積化を可能とする。また,ニューラルネットワークの学習プロセスでは,重み付き加算 (積和演算) 部分の重みを絶えず変更し記憶する必要性があり,これに代わる電力消費量の小さいデバイスも求められる。我々は分子やナノカーボンマテリアルを用い,ニューラルネットワークに置き換わる機能を実現する研究を進めている。講演ではこれらナノマテリアルとネットワークの形成,機能化のポイント,および我々の最近の研究成果について紹介する。
第49回: 2019年12月23日(月) 16:30-18:00
【場所】(戸畑)本部棟3F1会議室
(飯塚)研究管理棟3F第2会議室
【講演者】小田部荘司 (電子情報工学研究系・教授)
【タイトル】Time-Dependent Ginzburg-Landau方程式を用いた超伝導線材中の3次元量子磁束構造のシミュレーション
【概要】
横磁界下での超伝導体内の磁束線を留めるピンについての様々な条件の違いよって臨界電流密度J_cが変化することが知られている。一方,Time-Dependent Ginzburg-Landau方程式(TDGL方程式) は非定常状態の超伝導を記述することができる現象論的モデルとして使われており,TDGL方程式を元にした量子化磁束線の動きに関する研究が多く存在する。そこで,本研究では細い線における近似を用いた3次元のTDGL方程式を,数値的に解くことによって,横磁界下での超伝導体内の量子化磁束線の動きを視覚的に表現し,様々な形状を持つピンにおける臨界電流密度の磁界依存性(J_c-B)および,柱状ピンにおけるJ_cのピンの角度依存性について調査を行った。
第48回: 2019年11月7日(木) 16:30-18:00
【場所】(戸畑)本部棟1F TV会議室
(飯塚)研究管理棟2F TV会議室
【講演者】日夏幸雄 (北海道大学大学院理学研究科化学専攻・名誉教授)
【タイトル】希土類が物性の主役となる酸化物の多彩な構造とその磁気的性質
【概要】
希土類は遷移金属と比べイオン半径が大きいため,ペロブスカイト型酸化物ABO_3_では,その磁気物性を決定するBサイトに入らず,Aサイトに入るため,物性の主役とならない。しかしながら,Ru,Re,Irなどの+5価の4d, 5d遷移金属と希土類と組み合わせることにより,これらの元素をABO_3_のBサイトに入れた一連の複合酸化物A_n_L_n_M_n-1_O_3n_(A =Sr, Ba; M = Ru, Re, Ir; n = 2-4) を合成した。そこでその多彩な構造と磁気的性質を中心に紹介する。さらに,希土類と4d,5d遷移金属の比が3:1の蛍石型派生化合物(Ln_3_MO_7_)の構造と磁気的性質についても述べる予定である。
第47回: 2019年10月17日(木) 16:30-18:00
【場所】(戸畑)本部棟1F TV会議室
(飯塚)研究管理棟2F TV会議室
【講演者】飯久保智 (生命体工学研究科生体機能応用工学専攻・准教授)
【タイトル】鉄鋼材料中の水素の挙動に関する第一原理計算 (後半)
【概要】
環境に対してクリーンな水素は次世代のエネルギー源として注目されています。その水素を燃料とした燃料電池の開発に注目があつまる一方で, 関連する構造材料についても耐水素脆化性の対策が急務となっています。軽元素である水素は, 実験的に微視的な状況を明らかにすることが難しいため, 計算機シミュレーションを援用することによって理解が深まると期待されています。本セミナーでは, グループで最近行った鉄鋼材料中の水素の挙動に関する第一原理計算について講演いたします。① 鉄中の水素の挙動調査, ② 鉄鋼材料中の添加元素と水素の相互作用, ③ 鉄の結晶構造に水素が与える影響などについて, 時間の許す限りご紹介したいと思います。
第46回: 2019年9月2日(月) 16:30-18:00
【場所】(戸畑)本部棟3F3F1会議室
(飯塚)共通教育研究棟1FAV講演室
【講演者】飯久保智 (生命体工学研究科生体機能応用工学専攻・准教授)
【タイトル】鉄鋼材料中の水素の挙動に関する第一原理計算 (前半)
【概要】
環境に対してクリーンな水素は次世代のエネルギー源として注目されています。その水素を燃料とした燃料電池の開発に注目があつまる一方で, 関連する構造材料についても耐水素脆化性の対策が急務となっています。軽元素である水素は, 実験的に微視的な状況を明らかにすることが難しいため, 計算機シミュレーションを援用することによって理解が深まると期待されています。本セミナーでは, グループで最近行った鉄鋼材料中の水素の挙動に関する第一原理計算について講演いたします。① 鉄中の水素の挙動調査, ② 鉄鋼材料中の添加元素と水素の相互作用, ③ 鉄の結晶構造に水素が与える影響などについて, 時間の許す限りご紹介したいと思います。
第45回: 2019年6月20日(木) 13:00-14:30
【場所】(戸畑)7号棟2F204号室
【講演者】堀田善治 (基礎科学研究系・特別教授)
【タイトル】高圧巨大ひずみ加工を利用した構造・機能材料の高性能化 (後半)
【概要】
加工しても形状が変わらない形状不変加工(いわゆる巨大ひずみ加工)で大量ひずみを導入することにより結晶粒の超微細化を図ることができる。また,巨大ひずみ加工は高圧下で行うことで脆性的な金属間化合物,セラミックス,半導体にも適応できる特徴がある。併せて高圧印加に伴う相変態も利用できる場合がある。金属材料では結晶粒微細化による高強度化や超塑性が出現する特性に改質でき,金属間化合物,セラミックス,半導体も,それぞれが持つ機能性向上に繋げることができる。本講演では,このような高圧巨大ひずみ加工のプロセスを含め構造・組織解析および特性評価について紹介する。
第2回Kyutech物性ワークショップ: 2019年6月7日(金) 13:30 - 8日(土) 15:50
【タイトル】新学術領域 J-Physics:多極子伝導系の物理 J-Physics地域研究会 - 北九州
特別セッション 「5d電子系における新物質と物性開拓」
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス MILAiS
【研究会趣旨】
このたび第二回 Kyutech 物性ワークショップを開催いたします。新学術領域 「J-Physics: 多極子伝導系の物理」 と共同して 「5d 電子系における新物質と物性開拓」 をテーマに取り上げます。5d 電子系は量子力学と相対性理論の両方の特性が表れる興味深い物質群で近年の物性物理および物質科学研究の最重要トピックになっています。今回のワークショップでは, 5d 電子系の新物質,新規物性をいかに開拓するか,徹底議論します。
第44回: 2019年5月24日(金) 16:30-18:30
【場所】(戸畑)本部棟3F 3F1会議室
(飯塚)共通教育研究棟1F AV講演室 (TV中継)
【講演者】堀田善治 (基礎科学研究系・特別教授)
【タイトル】高圧巨大ひずみ加工を利用した構造・機能材料の高性能化 (前半)
【概要】
加工しても形状が変わらない形状不変加工(いわゆる巨大ひずみ加工)で大量ひずみを導入することにより結晶粒の超微細化を図ることができる。また,巨大ひずみ加工は高圧下で行うことで脆性的な金属間化合物,セラミックス,半導体にも適応できる特徴がある。併せて高圧印加に伴う相変態も利用できる場合がある。金属材料では結晶粒微細化による高強度化や超塑性が出現する特性に改質でき,金属間化合物,セラミックス,半導体も,それぞれが持つ機能性向上に繋げることができる。本講演では,このような高圧巨大ひずみ加工のプロセスを含め構造・組織解析および特性評価について紹介する。
第43回: 2019年3月29日(金) 14:00-17:10
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス・コラボ教育支援棟3階セミナー室
飯塚キャンパス飯塚AV講演室 (TV会議システムを使って中継を行います)
【タイトル】物質の磁性
【研究会趣旨】
今回の kyutech 物性セミナーでは磁性をとりあげます。私達の世界は多くの電気・磁気に関わる現象や製品であふれていますが,磁性とは何か簡単に説明できますか? 磁性は電流が流れると現れます。つまり電荷が移動すると自動的にできます。また物質を構成する原子や電子にはスピンという磁石のもとになるものが本来備わっています。今回の講演会では,前半でスピンを含む物質のミクロな世界のお話をして頂きます。物質内部がいかに不思議な世界か分かるでしょう。後半では,より工学的テーマといえる磁石材料開発についての前線的話題について御講演頂きます。新しい磁性材料を作ることがいかに私達の生活に直結しているか分かるでしょう。
14:00-14:50
【タイトル】分裂するスピン
【講演者】求幸年 (東京大学大学院工学系研究科 / 教授)
【概要】
ある種の磁性体では,極低温においてスピン液体と呼ばれる不思議な量子状態が実現する。そこでは,電子のもつ基本的な自由度であるスピンが分裂し,マヨラナフェルミオンやエニオンといった新しい素粒子が現れる。講演では,キタエフ模型と呼ばれる理論モデルを発端とした最近の爆発的な研究展開を概観する。
14:50-15:30
【タイトル】トポロジカル欠陥をなすドメイン構造
【講演者】堀部陽一 (九州工業大学大学院工学研究院 / 准教授)
【概要】
遷移金属化合物の相転移では,様々な自由度の凍結に関係したドメインが形成される。一部の化合物におけるドメインはしばしば特有の配列を持ち,トポロジカル欠陥としての特徴を示す。本講演では,六方晶マンガン酸化物やカルコゲナイド化合物などに現れるドメイン構造について報告する。
休憩 15:30-15:40
15:40-16:30
【タイトル】計算科学とデータ駆動科学による永久磁石研究
【講演者】三宅隆 ( 国立研究開発法人産業技術総合研究所,材料・化学領域 / 主任研究員)
【概要】
現代の高性能永久磁石は遷移金属と希土類を主成分とする希土類磁石である。本セミナーでは,希土類磁石化合物の物性を第一原理計算に基づいて議論する。遷移金属の3d電子と希土類の4f電子の相互作用により磁性が発現する電子論的機構や第3元素の役割を考察する。また,機械学習を活用した新磁石物質探索について報告する。
16:30-17:10
【タイトル】磁気Kerr効果顕微鏡を用いた永久磁石材料の磁区観察
【講演者】竹澤昌晃 (九州工業大学大学院工学研究院 / 教授)
【概要】
磁性体の磁気特性は,磁性体内部の磁気的構造である「磁区」の構造に大きく依存するため,磁石材料の開発において磁区構造を直接把握することは大変重要である。偏光が磁性体表面で反射される際に,偏光面の回転や強度の変化が起こる現象 (磁気光学効果,磁気Kerr効果) を用いた磁区観察手法は,試料に磁界や熱を加えながら磁区構造の変化を「その場観察」できる特徴があり,永久磁石材料においても有用な観察技術である。本講演では,Kerr効果顕微鏡を用いて永久磁石材料等、磁性体の磁区観察を行った事例について報告する。
第42回: 2019年1月30日(水) 10:30-11:30
【場所】九州工業大学戸畑キャンパスC-2F講義室
【講演者】Prof. Dr. Javier Campo (Instituto de Ciencia de Materiales de Aragon, ICMA
(Spanish National Research Council (CSIC) - Zaragoza University, Spain), Director of ICMA
(スペイン ザラゴザ大学物質科学研究所 所長)
【タイトル】Neutron scattering experiments in the series A2FeX5H2O (A=Rb, K, NH4, X=Cl, Br): Multiferroicity found in (NH4)2FeCl5H2O
【概要】
The number of magnetoelectric multiferroic materials reported to date is scarce, as magnetic structures that break inversion symmetry and induce an improper ferroelectric polarization typically arise through subtle competition between different magnetic interactions. The (NH4)2FeCl5(H2O) compound is a rare case where such improper ferroelectricity has been observed in a molecular material. We have used single crystal and powder neutron diffraction to obtain detailed solutions for the crystal and magnetic structures of (NH4)2[FeCl5(H2O)], from which we determined the mechanism of multiferroicity [1]. From the crystal structure analysis, we observed an order-disorder phase transition related to the ordering of the ammonium counterion. We have determined the magnetic structure below TN, at 2 K and zero magnetic field, which corresponds to a cycloidal spin arrangement with magnetic moments contained in the ac-plane, propagating parallel to the c-axis. Also Neutron Spherical Polarimetry, which is uniquely sensitive to the absolute magnetic configuration and domain population, used in this work unambiguously prove the multiferroicity [2]. The observed ferroelectricity can be explained, from the obtained magnetic structure, via the inverse Dzyaloshinskii-Moriya mechanism. Here, also we present a neutron diffraction study under external magnetic field, aimed at elucidating the evolution of the magnetic structure under applied magnetic field (see figure 1), and determine the mechanism of magneto-electric coupling, which allows us to describe an unprecedented change from spin current to spin-dependent p-d hybridization mechanism [3]
[1] J. A. Rodríguez-Velamazán, O. Fabelo, A. Millán, J. Campo, R. D. Johnson, L. Chapon, Sci. Rep. 5, (2015) 14475.
[2] J. A. Rodríguez-Velamazán, O. Fabelo, J, Campo, J, Rodríguez-Carvajal, Navid Qureshi, L. C. Chapon Sci. Rep. 5, (2018) 10665.
[3] J. A. Rodríguez-Velamazán, O. Fabelo, J. Campo, A. Millán, J Rodríguez-Carvajal, L. C. Chapon. Phys Rev B 95, (2017) 174439.
第41回: 2019年1月11日(金) 17:00-18:30
【場所】九州工業大学戸畑キャンパス本部棟1F TV会議室 &飯塚キャンパス研究管理棟2F TV会議室 (TV中継)
【講演者】村上洋一 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・教授)
【タイトル】鉄系超伝導体LaFeAsO1-xHxの超過剰ドープ領域に出現する反強磁性相
【概要】
鉄系超伝導体では銅系酸化物超伝導体とは対照的に、超伝導に関与する3d電子軌道が複数個存在するために,スピン揺らぎだけでなく軌道揺らぎがクーパー対形成機構に重要な役割を果たしていることが指摘されてきた。本研究の対象物質であるLaFeAsO1-xHxでは,酸素の置換イオンとしてH-を使うことにより,多くの電子をFeAs層にドープすることができる。LaFeAsO反強磁性相(AF1相)に電子をドープしていくに従って,2つの超伝導相(SC1相とSC2相)が順次現れ,さらにドープをするとx=0.5付近で,新たな反強磁性相(AF2相)が出現することが分かった。このAF2相は構造的には中心対称性が破れており,AF1相と比較して大きな磁気モーメントを持ち局在性が強まっている。さらに他の鉄系超伝導体とは異なり,スピンギャップがゼロであることが明らかになった。これらの結果は,ドープ量を増加させていくと,多軌道状態からdxy軌道のみが実効的に重要となる単軌道状態に変化するというバンド計算の結果と整合しており,AF2相はSC2相の母相であると考えられる。この状況はdx2-y2軌道が主要な役割を果たす銅系酸化物超伝導体と類似しており,少なくとも過剰ドープ領域では,クーパー対形成機構としてスピン揺らぎが重要であると考えている。最後に,水素イオンの量子ダイナミクスを利用した超伝導ギャップの決定法についても報告する予定である。