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Kyutech物性グループセミナー

​九州工業大学の教職員・学生で定期的に勉強会を開いています。

​過去のセミナーはこちら>>

第55回: 2024年3月27日(水)  13:00-17:10

【場所】九州工業大学戸畑キャンパス・​コラボ教育支援棟3階セミナー室

【タイトル】輸送現象の物理 (ポスター)

【研究会趣旨】

今回の Kyutech 物性セミナーでは輸送現象をとりあげます。物性物理において輸送現象に関する研究は多くの重要問題を提起してきました。量子ホール効果の発見は物性におけるトポロジーの重要性を示す契機となり, 現在, この分野は物性研究におけるもっとも活発な分野のひとつとなっています。また電気伝導, 熱伝導, 超伝導, スピン伝導などの輸送現象は応用物性の基礎であり, 輸送制御を目指したデバイス開発が日夜なされています。今回の講演会では,輸送現象とこれに関わる物質設計において卓越した業績を挙げておれる二名の外部講演者をお招きして現在の研究の前線についてご講演を頂きます。本学でも量子輸送現象に関して精力的に研究されている二名の先生方にご講演を頂きます。

 

13:00-13:55

【タイトル】機能性反強磁性体の物質探索

【講演者】有田亮太郎 (東京大学先端科学技術研究センター/教授・RIKEN 創発物性科学研究センター/チームリーダー)

【概要】

異常ホール効果, 異常ネルンスト効果, 磁気光学カー効果など, 時間反転対称性の破れにともなう異常横伝導は, 通常, 磁化の大きな強磁性体で観測される。しかしながら近年, 一様磁化が非常に小さな反強磁性体で大きな異常横伝導を示す物質が発見され, 注目を集めている [1]。このような反強磁性体は, スピントロニクスへの応用も考えられ, 大変興味深い。本講演では, クラスター多極子 [2] を使って磁気構造予測を行い [3], 異常横伝導を示す機能性反強磁性体をハイスループット計算により探索する試み [4] について紹介する。講演の後半では, スピン結晶群を使って, スピン軌道由来の異常横伝導と磁気構造由来の異常横伝導を分離する試み [5] についても紹介したい。

[1] S. Nakatsuji et al., Nature 527, 212 (2015).

[2] M. -T. Suzuki et al., Phys. Rev. B 95, 094406 (2017).

[3] M. -T. Huebsch et al., Phys. Rev. X 11, 011031 (2021).

[4] T. Nomoto et al., submitted. 

[5] H. Watanabe et al., arXiv:2307.11560.

 13:55-14:30

【タイトル】金属材料におけるスピンホール効果の新展開

【講演者】福間康裕 (九工大院工/教授) 

【概要】

スピンホール効果は, 初めに半導体である GaAs の低温光学実験で観測された [1]。その後, 5d 遷移金属である Pt のスピンホール伝導度が GaAs の 10,000 倍にも達し, 室温で明確な電気的信号の観測に成功した [2]。その後, 非熱平衡相である β-Ta や β-W, 合金 PdPt 等でより大きなスピンホール伝導度が報告され, スピン軌道トルク磁化反転を利用した次世代磁気ランダムアクセスメモリの開発へと研究は進展している。本講演では, イオン注入により不純物を添加した白金薄膜のスピンホール効果について紹介する。20 keV 程度のイオン加速にて作製した硫黄 [3], 酸素 [4], 窒素 [5] 添加白金は結晶性の大きな変化はみられず, 外因性要因によりスピンホール角は 0.1~0.3 程度に増加した。一方, 30 keV のイオン加速にて作製したリン添加白金はドーズ量の増加に伴い欠陥が蓄積されスエリングやアモルファス化などの構造変化が生じた。この構造変化に伴いスピンホール角は増加する傾向にあり, トポロジカル絶縁体に匹敵するスピンホール伝導度を実現できる。

[1] Y. K. Kato et al., Science 306, 1910 (2004).

[2] T. Kimura et al., Phys. Rev. Lett. 98, 156601 (2007).

[3] U. Shashank et al., Adv. Quantum Tech. 4, 2000116 (2021).

[4] U. Shashank et al., Appl. Phys. Lett. 118, 252406 (2021).

[5] U. Shashank et al., Phys. Rev. B 107, 064402 (2023).

休憩 (14:30-15:40) <<教授会のため 1 時間10 分休憩>>

15:40-16:35

【タイトル】量子スピン液体におけるマヨラナ粒子と非可換エニオン

【講演者】松田祐司 (京都大学大学院理学研究科物理学専攻/教授)

【概要】

量子スピン液体は, スピン同士が互いに強く相互作用しているにも関わらず絶対零度においても量子ゆらぎによりスピンが凍結しない状態である。この状態は長らく理論の産物であったが, ここ 10 年来いくつかの現実の物質で観測されつつある。そのなかでも2次元ハニカム格子で実現されるキタエフ量子スピン液体は厳密に解ける基底状態を持ち, 電子スピンが分裂することによりマヨラナ粒子や非可換エニオンといった創発準粒子が現れる。非可換エニオンは, 熱擾乱に強いトポロジカル量子コンピューターの鍵となる粒子であり非常に注目を浴びている。ここではキタエフ物質の最有力候補である α-RuCl3 に対する最近の実験結果について述べる。特に半整数熱量子ホール効果 [1,2], ディラックコーン, マヨラナギャップの観測 [3,4] や, 最近行った α-RuCl3 単層膜の走査トンネル顕微鏡による測定 [5] について述べる。

[1] Y. Kasahara et al. Nature 559, 227 (2018).

[2] T. Yokoi et al. Science 373, 568 (2021).

[3] O. Tanaka et al. Nature Phys. 18, 429 (2022).

[4] K. Imamura et al. Science Adv. in press.

[5] Y. Kohsaka et al. a preprint.

16:35-17:10

【タイトル】量子ホール効果を基準に考察するトポロジカル物質科学の進展について

【講演者】大熊信之 (九工大院工/准教授)

【概要】

磁場下の 2 次元電子系においてホール伝導度が量子化される「量子ホール効果」は, 量子物性におけるトポロジー (位相幾何学) の重要性を示した最初期の例である。量子ホール効果を皮切りに様々なトポロジカル状態が発見・分類され, その特異な輸送特性に注目が集まっている [1]。トポロジカル状態を大別すると,「対称性に保護されたトポロジカル相」と「トポロジカル秩序」の2つに分けられる。 ホール伝導度が整数に量子化される「整数量子ホール効果」は前者の, 分数に量子化される「分数量子ホール効果」は後者の先駆的な例として位置付けられ, 両者は似て非なる物理的背景を持つ。本講演では, 整数・分数量子ホール効果を基準点と見なし, 以降のトポロジカル物質科学の進展を量子ホール効果との対比の中で解説する。後半では, 磁場の代わりにバンド構造の幾何学的性質を用いて分数量子ホール効果を実現する「分数チャーン絶縁体」に関する自身の最近の研究 [2, 3] も紹介する。

[1] M. Z. Hasan and C. L. Kane, Rev. Mod. Phys. 82, 3045 (2010).

[2] N. Okuma and T. Mizoguchi, Phys. Rev. Research 5, 013112 (2023).

[3] N. Okuma (in preparation).

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